「払ってはいけない」のに払ってしまう ― ランサムウェア被害の現実
「ランサムウェアに感染してしまった。システムが止まり、データも人質に取られている。」
そんなニュースが後を絶ちません。
警察やセキュリティ機関は常に「身代金を支払ってはいけない」と警告しています。
しかし現実には、多くの企業が“支払わざるを得ない”という苦しい選択をしています。
なぜ、そうなってしまうのか。
この記事では、ランサムウェアの仕組みと、企業が直面する現実の葛藤を解き明かします。

ランサムウェアとは何か ―「データを人質に取る」攻撃
ランサムウェア(Ransomware)とは、「Ransom=身代金」と「Software=ソフトウェア」を組み合わせた言葉です。
攻撃者は企業のシステムに侵入し、データを暗号化して使用不能にします。
そして「元に戻したければ暗号解除キーを買え」と脅迫してくる――
まさにデジタルの人質ビジネスです。
近年では、「データを暗号化するだけでなく、盗み出して公開をちらつかせる」という二重脅迫型が主流です。
つまり「支払わなければシステムは戻らず、さらに機密情報が漏れる」――
被害企業にとっては二重の痛手となります。
支払ってはいけない理由 ―「法的リスク」と「再犯の誘発」
警察庁や内閣サイバーセキュリティセンター(NISC)は明確に警告しています。
「ランサムウェアの要求に応じて支払うことは、攻撃者の資金源となり、さらなる犯罪を助長する行為である」
また、国際的にも、ランサムウェア組織の中にはテロ資金・制裁対象国との関連があるケースも報告されています。
もし支払先が米国OFAC(外国資産管理局)の制裁リストに該当していた場合、企業が“テロ資金提供”の罪に問われる可能性すらあります。
さらに、支払っても必ずデータが戻るわけではありません。
暗号解除キーが無効だったり、再度「追加の身代金」を要求されたりするケースも多いのです。
それでも企業が支払ってしまう「3つの現実」
現場では、理屈ではなく“生きるか死ぬか”の判断を迫られます。
以下のような理由から、支払いに踏み切る企業が後を絶ちません。
事業継続が不可能になる
医療機関や製造業、物流、自治体などでは、システム停止=社会的機能の停止を意味します。
1時間のダウンタイムが数千万円以上の損失になる企業も多く、経営陣が「支払うしかない」と判断するケースがあります。
バックアップも破壊されている
最近のランサムウェアは、バックアップサーバーやクラウド領域まで同時に攻撃します。
復旧手段が完全に断たれた状態で、「データを取り戻す唯一の手段」が身代金支払いになるのです。
情報漏えいリスクの封じ込め
顧客情報や機密データを“晒す”と脅され、企業のブランドと信頼を守るために支払いを選ぶ場合があります。
特に上場企業は株価や取引先への影響も考慮し、法務・広報・経営層が極めて難しい決断を迫られます。
「支払わないためにできること」はあるのか
完全に防ぐことは難しくても、「被害を最小化する準備」はできます。
オフラインバックアップの徹底
ネットワークから切り離したバックアップを物理的に保存しておくことが重要です。
ゼロトラストの導入
社内外を問わず、すべてのアクセスを検証する「ゼロトラストセキュリティ」体制を構築。
インシデント対応訓練
攻撃を受けた場合の手順・判断を事前にシミュレーションしておく。
サイバー保険の活用
損害・復旧費用をカバーする保険も普及しつつありますが、「支払い代行」ではなく「被害回復支援」に限定されます。
要するに、「攻撃を受けない努力」と同時に、「受けても崩れない設計」が求められるのです。
現実と理想のはざまで ― 経営判断の重み
ランサムウェア被害は、もはや「IT部門の問題」ではありません。
経営そのものを左右するリスクであり、経営判断のスピードと透明性が問われます。
攻撃者は冷酷ですが、彼らの狙いは“金だけ”ではありません。
社会機能の混乱、企業の信用低下、人々の恐怖――
それらを武器にしています。
「支払うか、支払わないか」は究極の二択。
しかし本来、その選択を迫られる前に「支払わなくて済む仕組み」をつくることこそが、真のセキュリティ経営なのです。
【今日のサクッとチェック!】
重要なのは「攻撃されても倒れない」体制――バックアップ・訓練・ゼロトラストが鍵!
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